その二日後、約束通り、お父さんが石の入れもんのドアを作ってくれることになったんだ。
って事で僕とお父さん、それにお母さんと今日もお家にいるキャリーナ姉ちゃんとでお庭に置いてある石の入れもんのとこに行ったんだよ。
「お父さん、ここだよ! こっちっ側につけるドアを作って」
ドアやその木枠に使う木材は昨日のうちに、この入れもんの横にお父さんが運んでおいてくれたんだよね。
だから僕、中に置いてある搾り器の、お醤油が出てくるとこがある方の壁をパンパン叩いてお父さんにこっちの壁にドアをつけるんだよって教えてあげたんだ。
でもね、そんな僕にお父さんはちょっと困ったようなお顔でこう言ったんだ。
「どこにドアをつけるのかは解ったけど、その前に穴を空けてもらわないと」
「先に穴を空けるの?」
「ああ。そうしないと、どれくらいの大きさの木枠を作ったらいいのかが解らないからな」
あっ! そう言えば石のお家にドアや窓を作る時って、石の壁を作ってからそこに穴を空けて、それに合うように木の枠をつけるって言ってたっけ。
ならこの石の入れもんだって、穴が開いてないとどれくらいの大きさの木枠を作ったらいいか、お父さんも解らないよね。
「うん、解った! 今空けるね」
僕はお父さんに向かってそう言うと、魔力を体に循環させたんだよ。
でね、これくらいの大きさの穴が開いてって思いながらクリエイト魔法を使ったんだ。
「おお、本当にあっという間に穴が開くんだな」
「そりゃそうだよ。だった魔法だもん」
お父さんが言う通り、僕が魔法を使うと石の入れもんの壁が変化を始めて、あっと言う間にドアをつける穴が開いちゃったんだよ。
それを見たお父さんはちょっとびっくりしたみたいなんだけど、すぐに気を取り直してその穴を調べ始めたんだ。
「の実であげた時と違って断面がきれいだから、これなら何も手をくわえなくても木枠をつけられそうだな」
「普通は違うの?」
「ああ。石壁に穴を空けただけだと、普通は断面ががたがただからな」
石の壁に穴をあける時はね、まず大体の大きさの穴を空けてから、ノミやトンカチを使って表面をなるべくきれいになるように削るらしいんだ。
だってそうしないと隙間が大きすぎて、壁と木枠の間に固まる泥を塗っても穴が開いちゃうからなんだって。
「でもこの穴なら、その心配はなさそうだ」
お父さんはそう言うとね、近くに置いてあった木の角材を穴の近くに当てて、どれくらいの長さに切ったらいいのか印をつけ始めたんだ。
「うん、大体こんなもんかな」
でね、高さや幅を決めるとすぐにそれを切り始めたもんだから、僕たちはその邪魔にならないように、お父さんから離れて入れもんの中の様子を見る事にしたんだ。
「あっ、ルディーン。おしょうゆ、ぽたぽたしてないよ」
「ほんとだ! もう全部搾れちゃったのかなぁ」
石の入れもんを作った時は、まだお醤油がちょっとずつ出てたんだ。
でも今見たら、もう全然出てなかったんだもん。
だからそれを見た僕たちは、お醤油を搾り終わったんだって思って搾り器の下に置いてあったかめをずらして中を覗き込んだんだよ?
でもね、
「そっか。かめに入ってるから、見ただけじゃ解んないや」
お醤油がまっ黒だったもんだから、かめの中にたまってるって事しか解んなかったんだ。
僕、これにはちょっと困っちゃったんだよね。
「ルディーン。これでもう、お醤油が完成したの?」
「ううん、まだだよ。搾ったお醤油はね、油が浮いてきたり、もろみの搾りかすが沈んだりするのを待ってから、一度火にかけないとダメなんだ」
僕はキャリーナ姉ちゃんにそう教えてあげるとね、もういっぺんかめの中のお醤油を見てみたんだ。
でも、もろみの搾りかすが沈んだかどうかなんて、お醤油が真っ黒だから上から見ても解んないよなぁ。
油はね、ちょっと明るいとこに持ってくと虹色に光るから解るんだけど、搾りかすが沈んでるかなんて上から見ても解んないよね。
だから僕、頭をこてんって倒してどうしよっかなぁって考えてたんだよ。
そしたらさ、そんな僕を見たお母さんがどうしたの? って。
「何か問題でもあった?」
「ううん。あのね、お醤油は真っ黒でしょ? だからもろみの搾りかすが沈んじゃってるか、見ても解んないでしょ? だから僕、困っちゃったんだ」
だから僕、もろみの搾りかすが沈んでるかどうかが解んないんだって教えてあげたんだよ?
そしたらそれを聞いたお母さんが、
「あら、そんな事で悩んでいたの?」
なんて言って笑うんだもん。
だから僕、何で笑うのさ! って怒ったんだ。
そしたらお母さんはごめんごめんって謝りながら、僕に教えてくれたんだ。
「その搾りかすはお醤油に沈むのよね? ならよほどの事が無い限り、1日も置いておけばほとんどのものが沈んでしまっていると思うわよ」
「そうなの?」
「ええ。中には沈まないものもあるかもしれないけど、それはしょうゆよりも軽いという事だから、逆にいくら待っても沈まないんじゃないかしら?」
この搾ったお醤油、石の入れもんの中に二日間も入ってたでしょ?
だからその中に入ってたもろみの搾りかすなんか、もうとっくに沈んじゃってるはずよってお母さんは笑うんだよね。
「そっか。じゃあ、後は油が全部浮くのを待つだけだね」
「ルディーン。油は多分、搾りかすよりも早く浮いていると思うわよ。だからすぐに、次の工程に進んでもいいんじゃないかなってお母さんは思うわよ」
そっか、お水に油を入れたらすぐに浮いてくるもんね。
それに気が付いた僕は、お醤油が入ってるかめを持ってお台所に行こうと思ったんだよ?
でもそれを見たお母さんが、ちょっと待ってって。
「ルディーン。かめを揺らすとせっかく沈んだ搾りかすがまだ浮いてくてしまうかもしれないでしょ? だからそのかめは私が持つわ」
沈んじゃってる搾りかすも、僕が運んでお醤油がちゃぽちゃぽ言ったらまた浮いてくるかもしれないよね?
だからお母さんが揺らさないように、お台所までゆっくりと運んでくれたんだ。
「ルディーン。まずは上に浮いている油を掬うのね?」
お母さんはそう言うとね、おっきな木のおさじを使ってすーって油を掬ってくれたんだよ?
そしたらね、あっと言う間に浮かんでた油が全部なくなっちゃったんだ。
「やった! お母さん、後はお醤油をお鍋に入れてあっつくするだけだよ」
「ええ。でも慎重にやらないと搾りかすが浮いて来ちゃうかもしれないから、それもお母さんがやるわね」
「はーい!」
って事で僕とキャリーナ姉ちゃんは、お母さんがお玉でお醤油を掬って隣りのお鍋に入れてくのをずっと見てたんだよ。
そしたらさ、何でか知らないけどかめの中にまだお醤油が入っているのに、お母さんはそれを掬うのをやめちゃったんだ。
「お母さん。まだお醤油、残ってるよ?」
「ええ、それは解っているけど、これ以上掬うと沈んでいる搾りかすまで掬ってしまいそうだから」
あっ、そっか。
下の方に搾りかすが沈んでるんだから、全部掬ったらダメだよね。
そう思って僕がうんうんと頷いてたらね、
「でもでも、中にまだこんなに残ってるよ? このおしょうゆ、どうするの?」
キャリーナ姉ちゃんが、残ってるお醤油がもったいないよって言うんだ。
でもね、お母さんはその事もちゃんと考えてたみたい。
「最後に火を入れるって事は、保存する為よね? なら搾りかすが殆ど入っていない方がいいでしょうけど、すぐに使ってしまうのなら多少残っていてもいいんじゃないかと思うのよね」
お母さんはそう言うと、こないだもろみを入れたのとおんなじ麻の袋を持ってきたんだよ。
でね、それを新しいお鍋に入れると、かめの中に残ってたお醤油をその中に入れてからきゅって軽く絞ったんだ。
「ほら、こうすれば搾りかすが殆ど残らないでしょ?」
「そっか! お母さん、頭いい!」
そりゃあ、ちょっとは残ってるかもしれないけど、こうすればほとんどの搾りかすは取れちゃうもんね。
別に売る訳じゃないんだし、お母さんの言う通りすぐに使う分だけだったらちょっとくらい濁っててもいいからこれでいいのかも。
「それじゃあ、火入れを始めましょうか」
「お母さん。あんまりあっつくしすぎちゃダメだよ。ぐつぐついったら、お醤油が美味しく無くなっちゃうからね」
「あら、そうなの?」
最後の火入れはね、中の酵母が働かなくするためにするんだって。
それにあんまりあっつくしすぎちゃうと、逆にお醤油が美味しく無くなっちゃうんだってさ。
「なら、ルディーン。ちょうどいいくらいになったなと思ったら、お母さんに教えてね
「うん!」
僕、料理のスキルを持ってるでしょ?
だからこれだって、多分どれくらいアッ尽くしたらいいのか解ると思うんだよね。
そう思って台の上にのっかってお母さんの隣でお鍋の中を見てたらね、
「あっ、これくらいでいいと思う」
「えっ! もう?」
これくらいの熱さがちょうどいいって感じたんだよ。
だから止めてって言ったら、お母さんがびっくりしちゃったんだ。
「まだ湯気が出始めたばっかりよ?」
「うん。でもね、これ以上あっつくすると、お醤油がおいしくなくなっちゃうみたい。あっでも、そのまま冷やしたらダメな気がする」
「冷やしたらダメって、どうしたらいいの?」
「あのね、今くらいの温度で、ちょっとの間置いとかないとダメな気がするんだよ」
多分だけどさ、今くらいあっつくなってれば酵母の動きは止まると思うんだよね。
でも、すぐに全部が動かなくなるわけじゃないでしょ?
だからちょっとの間、これくらいの温度のまんま置いとかなきゃダメだって思うんだ。
「そう。でも、流石にそれは難しそうだから、もう少しだけ温めてもいい?」
「あっつくするの?」
「ええ。ちょうどいいくらいで止めるとすぐにそれ以下の温度になってしまうけど、少し熱めにしておけばその温度以下になるまでに時間がかかるでしょ?」
そっか、ちょうどいいあったかさって事は、火からおろしたらすぐにそれよりつべたくなっちゃうって事だもん。
でもちょっと熱めにしとけば、少し冷めちゃってもちょうどいい温度になるだけだもんね。
「うん、いいよ。多分その方がおいしくできるって、僕も思うもん」
「解ったわ。それじゃあ、もう少しだけ温めるわね」
お母さんはそう言うとね、かまどの薪を崩して火を弱くしてからもういっぺんお醤油の入った鍋をかけたんだよ。
そしたら一気にあっつくなったりしないでしょ?
でね、そのまんまちょっと置いといてから、お母さんはお鍋を窓からおろしたんだ。
「ルディーン。温度が下がりすぎないか、ちゃんと見ておいてね」
「うん、解った!」
僕は元気よくそう答えたんだけど、
「あれ? もうこれくらいでいい気がする」
お鍋に入ってるお醤油を見てたらね、なんとなくこれ以上お鍋を温めなくってもいいような気がしたんだ。
「あら、もういいの?」
「うん。お醤油、あんまりいっぱい作んなかったから、これくらいの時間でも大丈夫だったみたい」
多分だけどさ、もっといっぱいお醤油があったらもっと長い時間あっつくしとかないとダメなんじゃないかなって思うんだよ。
でも今回はかめ一杯分より少なかったし、火を弱くしてから少しの間置いといたでしょ?
だからこれだけの時間で、お醤油の火入れが終わっちゃったんじゃないかなぁ。
「なら後は、このまま冷やせばいいのね?」
「うん。あっ、でもごみとかが入ったらやだから、蓋だけはしといてね」
「ええ、解ってるわよ」
お母さんはそう言うとね、お醤油が入ったお鍋を涼しい場所に置いてから、
「こっちのしょうゆの火入れはやっておくから、ルディーンとキャリーナはハンスの様子を見てきて頂戴」
麻の袋でこした方のお鍋を手に持って、僕とキャリーナ姉ちゃんにそう言ったんだ。
読んで頂いてありがとうございます。
本当は今回でドア作りも醤油造りも終わらせるつもりだったのですが、この時点ですでにいつもよりかなり長くなってしまったのでここで今回は終わらせることにしました。
なにせまだドアを完成させるだけじゃなく。醤油を使った料理まで作らないといけませんからね。
さて、長く続いた出張ですが、前回もお知らせした通り今週で泊まりの出張は終わりのようです。
すみませんが、これまで同様今週の金曜日の更新はお休みさせて頂きますが、来週からは通常通り月金の週2回更新に戻す予定です。